人損と物損

人損とは、人身事故の場合に、被害者の身体に傷害が生じ損害賠償請求権が発生する場合をいいます。
これに対して、物損とは、被害者の物的な損害(例えば、車や自転車の修理代、破れた衣服代など)をいいます。

人損について認められる損害には次のようなものがあります(あくまでも一例であり、具体的事案によりその項目及び範囲は異なります)。

積極損害
治療関係費、付添看護費、入院雑費、通院交通費、装具・器具等購入費、家屋・自動車等改造費、葬儀関係費用、弁護士費用、遅延損害金など
消極傷害
休業損害、後遺症による逸失利益、死亡による逸失利益など
慰謝料
傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料、近親者慰謝料など

物損について認められる損害には次のようなものがあります(あくまでも一例であり、具体的事案によりその項目及び範囲は異なります)。

過失相殺

損害賠償額を算出する場合に、被害者にも過失があれば、その過失割合に応じて損害賠償額が減額されることをいいます。
交通事故においては、追突事故のように加害者側が一方的に悪いようなケース(過失100%)もありますが、被害者側にも多少の落ち度(過失)が認められるケースも、一定程度あります。
このような場合には、加害者は、被害者側の過失割合に相当する部分を差し引いて、被害者に損害を賠償することになります。

損益相殺

被害者またはその相続人が事故に起因して何らかの利益を得た場合、その利益が損害の填補であることが明らかであるときは、その額を損害賠償額から控除する場合をいいます。
控除された例としては、国民年金法による障害基礎年金(最判平11.10.22)、受領済の自賠責損害賠償額(最判昭39.5.12)などがあります。
控除されなかった例としては、搭乗者傷害保険金(最判平7.1.30)、生命保険金(最判昭39.9.25)などがあります。

時効

民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、通常不法行為時から3年となります。
自賠責法19条により、被害者請求権(自賠責法16条1項)の時効は3年となっており、起算点は損害の費目により別個に扱われています。

遅延損害金

遅延損害金とは、債務の履行を遅延したことにより発生する損害をいいます。
交通事故による損害賠償債務は民法上の金銭債務ですので、年5%の遅延損害金が発生します。
交通事故の場合は、事故時から遅延損害金が発生することになります。

保険の種類・内容

保険には強制保険と任意保険の区別があります。

強制保険
加入が強制される保険。具体的には自賠責保険、自賠責共済保険。
任意保険
加入について個人の自由に任せられている保険。

自賠責保険

自動車損害賠償保障法(自賠責法)により、原則としてすべての自動車(農耕作業用小型特殊自動車を除き、原動機付自転車を含む)に付けることが義務づけられている強制保険です。
自動車の保有者・運転者が自動車の運行によって他人の身体・生命を害した場合に、法律上の損害賠償責任を負担することによって生じた損害に対して保険金が支払われます。
基本的には過失割合が考慮されず賠償を受けることができますが、重過失の場合には減額がされます(自賠法16条の3)。
支払限度額(保険金額)は、自賠法施行令2条で規定されており、支払額は、支払い基準(自賠16条の3、国土交通省告示)によるものとされています。
全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)などが行う自賠責共済(自動車賠償責任共済)も、自賠責保険と同一の取扱いを受けます。

任意保険

加入につき個人の自由に任せられている保険をいいます。
任意保険について、交通事故の場面では、2種類の保険が大きく関わってくると言えます。

  1. 相手方(加害者)が加入している保険

    相手方が契約している保険会社が、保険契約の内容に従って賠償責任を負担する保険です。
    加害者の被害者に対する損害賠償責任を、加害者の契約する任意保険会社が肩代わりする形で、保険金が支払われる保険を言います。
    対人賠償保険や、対物賠償保険といわれる保険があります。


  2. ご自分(被害者)が加入している保険

    被害者が自身の保険契約の内容によって、自身の損害を填補することができる場合があります。
    例えば、搭乗者傷害保険や自損事故保険、人身傷害補償保険などがあります。
    その他、車両保険や、弁護士費用等保障特約などがあり、現在の保険契約は、種類も豊富で、個々の保険内容は、複雑多岐にわたっています。
    ご自身の保険証券・保険約款をご確認いただく必要があります。

対人賠償保険

責任保険の一種で、人損の賠償責任を負担する保険です。
加害者(相手方)が、この保険に入っていれば、貴方はその賠償を保険会社から受けることができます。
なお、加害者の保険契約の内容により、限度額等が決まっている場合があります。

対物賠償保険

責任保険の一種で、物損の賠償責任を負担する保険です。
加害者(相手方)が、この保険に入っていれば、貴方はその賠償を保険会社から受けることができます。
なお、加害者の保険契約の内容により、限度額等が決まっている場合があります。

示談代行

事故が発生した場合に、被保険者(自動車運転者)が被害者から受けた損害賠償請求に対して、被保険者の同意を得て、被保険者に代わって損害保険会社が被害者と直接示談交渉を行い、事故による紛争の解決にあたることをいいます。
この示談代行制度は、加害者にとっては交渉等の煩わしさがなくなり有利です。
被害者にとっては、お互いに専門家ではない場合に、加害者と直接交渉するのではなく、保険会社を通じての交渉になる点で、一定のメリットがあるでしょう。
一方で、専門的知識を有する損害保険会社が相手となって交渉することになりますので、多大な労力を強いられますし、その労力から逃れるために損害保険会社の提案を受け入れてしまうおそれもあり、被害者にとって有利な制度とは言えないかもしれません。

三基準

自賠責基準
自賠責保険による賠償額の基準であり、3つの基準の中で最も低額の基準です。
もっとも、被害者に7割以上の過失がない限り過失相殺されないことから、被害者の過失割合が大きい事故の場合、実際には自賠責保険の方が支払保険金額が高額になるということもあり得ます。
また、被害者が直接自賠責保険会社に請求できるなど、手続きは簡易であり、迅速な回収が図れます。
保険基準
加害者が契約する保険会社を通じて、示談交渉によって支払われる賠償額の基準です。
保険会社が内部的に定めている基準であり、訴訟における基準より低額になっています。
本来のあるべき賠償額は裁判基準で認められる金額のはずですが、示談(=お互いに譲り合って和解する)という性質上、被害者側において裁判をしない、煩わしい手続きを採らないという変わりに、一定の減額を許容して、賠償金を任意に支払ってもらうということになります。
被害者自ら相手方保険会社と交渉するか、または弁護士を通じて交渉するかによって、相手方の出方が変わってくる部分であり、実際に、弁護士を通じて示談交渉を行った方が、当初の相手方保険会社の提示額をそのまま受け入れる場合と比べて、より満足のいく賠償を受けているというケースがほとんどです。
裁判基準
裁判上認められる賠償基準です。
通常、三基準のうち最も高額になりますが、その金額が本来被害者の方が受け取るべき賠償金額というべきものです。
実際に訴訟を提起する場合には、裁判官に「そのあるべき金額」を認定してもらうための証拠と主張を、法律的な観点に従って収集・構成する必要があるため、専門家の関与は欠かせないものとなっています。

人身傷害補償保険

自動車の運行等に起因する急激かつ偶然な外来の事故によって人身傷害を被った場合に被害者自身の損害を補償する保険をいいます。
この保険による補償を受けることができるかについては、ご自身の保険証券等によって契約内容を確認することが必要ですが、ご依頼いただける場合は、当事務所において直接、契約保険会社に確認をいたします。

弁護士費用特約

ご自分が契約される保険に、特約として追加する保険で、弁護士費用を保険会社が負担するという保険です。
この特約が付いている場合、弁護士費用を全く、またはほとんど気にせずに、弁護士に相談し、または示談・訴訟を頼むことができます。
この保険による補償を受けることができるかについては、ご自身の保険証券等によって契約内容を確認することが必要ですが、ご依頼いただける場合は、当事務所において直接、契約保険会社に確認をいたします。

健康保険の利用

利用できます。

旧厚生省の通達において、交通事故診療に健康保険を使用できるとの見解が表明されており、「自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変りがなく、保険給付の対象となるものであるので,この点について誤解のないよう住民医療機関等に周知を図るとともに,保険者が被保険者に対して十分理解させるよう指導されたい。」との通達がなされています(昭43.10.12保険発第106号)
なお、業務または公務上の事故や,通勤中の事故等,労災保険法や公務員災害補償法の適用がある事故については除きます(健康保険法55条・国家公務員共済組合法60条・地方公務員等共済組合法62条)。

労災保険の利用

利用できます。

労働者災害補償保険(労災保険)は,業務上の事由または通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等(業務災害・通勤災害)に対して保険給付を行う制度ですので,労働者が業務中または通勤途中に交通事故に遭遇した場合であれば,被った損害について労災保険から保険給付を受けることができます。
公務員についても,国家(地方)公務員災害補償法により,労災と同様の補償が受けることができます。
なお、労災給付を受けることができる場合には,健康保険から給付を受けることはできません(健康保険法55条1項)。


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