成年後見等(法定後見)

法定後見の類型

法定後見制度は、本人の判断能力の程度によって、次のように3つに区分されます。
* 共通の仕事の内容は→「身上監護」と「財産管理」と「見守り」、そして「家庭裁判所への定期報告」です。

  1. 成年後見

    本人の判断能力がほとんどない場合。
    たとえば、買い物に行ってもつり銭の計算ができず、必ず誰かに代わってもらうなどの援助が必要な人がこれにあたります。

  2. 保佐

    本人の判断能力が特に不十分な場合。
    たとえば、日常の買い物程度ならばひとりでできるが、不動産の売買や自動車の購入などの重要な財産行為をひとりですることが難しいと思われる人がこれにあたります。

  3. 補助

    本人の判断能力が不十分な場合。
    たとえは、自動車の購入などもひとりでできるかも知れないが、不安な部分が多く、援助者の支えがあった方がいいと思われる人がこれにあたります。

成年後見制度の利用状況

最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」によれば、平成27年の成年後見等の申立て件数は、以下の通り。

後見
27,521件
対前年比約0.02%の増加
保佐
5,085件
対前年比約5.8%の増加
補助
1,360件
対前年比約3.5%の増加

成年後見

  1. 成年後見が開始されると、本人はごく日常的な買い物などを除き単独で法律行為ができなくなり、本人の援助者として「成年後見人」が選任される。
  2. 権限は、当然に付与される「広範な代理権」と「取消権」

    成年後見人には、広範な代理権が自動的に与えられ、本人のために、①本人の預貯金や不動産を管理したり、②本人の保険金や年金を受領したり、③本人に代わって種々な契約を結んだり、④本人が無断で行った不利な法律行為について取消を求めたりすることができます(取消権)。
    成年後見人は、本人の考えを尊重し、その心身の状態及び生活の状況等をよく考えて、代理権や取消権を適切に使うことにより、本人を援助していきます。
    職務の内容も、本人の生活・療養のお世話(「身上監護」といいます。)や、本人が持っている財産の管理・処分(「財産管理」といいます。)など、広い範囲にわたっています。

保佐

  1. 保佐が開始されると、本人は一定の重要な財産行為(金銭の貸し借り、不動産や自動車などの売買、自宅の増改築など)について、保佐人の同意がないと自分一人では行うことができなくなり、本人の援助者として「保佐人」が選任される。
  2. 権限は、「同意権」、「取消権」と、特別に与えてもらう「代理権」

    本人は、日用品の購入などの日常生活に関する行為は単独で行えますが、重要な財産行為(民13条1項の各種行為のみ)についは保佐人の同意が必要となり(同意権)、本人が同意を得ずに行為を行った場合には、本人に不利な行為と考えれば取り消すことができます(取消権)。
    また、家庭裁判所で定められた特定の事柄については、保佐人が本人の代理人として法律行為を行うことが可能になります(代理権)。
    保佐人は、この同意権、取消権、代理権を使って、本人の意思を尊重しながら本人の身上監護と財産管理を行うことになります。

  3. 保佐人の同意を要する行為(民法13条1項)の例
    1. 元本を領収し、また利用すること
      (預貯金の払戻しや弁済の受領、金銭の貸付など)
    2. 借金をしたり、保証人になったりすること
    3. 不動産や高価な財産を売買したり、貸し付けたり、担保をつけたり、福祉サービス利用契約や保険契約等を締結すること
    4. 訴訟行為をすること
    5. 贈与や和解をすること
    6. 相続を承認、放棄したり、遺産分割をしたりすること
    7. 贈与や遺贈を断ったり、何か負担することを条件とした贈与や遺贈を受けることを承諾したりすること
    8. 新築、改築、増築、大修繕の契約をすること
    9. 土地を5年以上、建物を3年以上、動産を半年以上にわたって貸す契約をすること

補助

  1. 補助が開始されると、本人の援助者として「補助人」が選任され、家庭裁判所で定められた一定の行為についてのみ、補助人の同意が必要となる(同意権)。←ピンポイント型

    本人の不得意な危険な行為のみに同意権を設定するのが補助の特徴です。
    そして、本人が同意を得ずに行為を行った場合には、本人に不利な行為と考えれば、取り消すことができます(取消権)。
    また、家庭裁判所で定められた特定の事柄について、補助人は本人の代理人として、本人に代わって法律行為を行うことが可能になります(代理権)。

  2. 権限は、「同意権」、「取消権」と、特別に与えてもらう「代理権」

成年後見制度における「取消権」は、すごい!

取消権とは、本人が行った法律行為を取り消すことができる権限を言い、取り消された法律行為は、はじめから無効であったとみなされる。
本人が何かを受け取っていた場合の返還義務の範囲は、「その行為よって現に利益を受けている限度に」限られる(現存利益)。

  1. そのまま残っている物
    → 返還必要。但し、損傷している場合でもその損傷物を返還すれば足りる。
  2. 貸金等を生活費として有益に消費し、形を変えて残っている場合
    → 返還必要
  3. 浪費したり、紛失したり、騙し取られたり、滅失したりした場合
    → 返還不要

後見制度支援信託

後見制度支援信託は、本人の財産のうち、普段の支払いをするのに必要十分な金銭を後見人が管理し、普段は使用しない金銭を信託銀行等に預ける仕組みです。
信託財産を払い戻したり、信託契約を解約したりするには、家庭裁判所の指示が必要となります。
本人がある程度以上の財産をお持ちの場合に、その財産を適切に管理するための手法の一つです。

  1. 取消権が必要な場合

    高齢者が、悪質業者に騙されて高価な布団を購入する契約を結ばされてしまった。
    また、身寄りがなく、認知症やその他の病気のため日常生活が困難になってきている。

         ↓
    1. 成年後見人は、本人のなした法律行為を取り消すことができるため、詐欺取消やクーリングオフの適用が難しい場合であっても、契約を取り消すことができる。
    2. また、財産管理の一環として後見人が通帳等を管理するため、高齢者がニセ電話詐欺等により多額の預貯金を引き出すことを未然に防止できる。
  2. 判断能力の低下で生活に支障が出ている場合

    身寄りがなく、認知症やその他の病気のため日常生活が困難になってきており、将来が不安である。

         ↓

    後見人や任意後見人は、様々な代理権が与えられるため、本人に代わって、ヘルパーを雇う契約や各種介護施設や医療機関への入所・入院契約などをしてくれ、さらにはその費用等の支払いはもちろん預貯金の管理などの、本人に必要なことの大部分をしてくれる。
    これによって生活を維持することができる。
    * 施設入所中の身寄りのない高齢者の判断能力がなくなりそうになっている事案も同じ。

  3. 虐待や不利益なことをされている場合

    親族と同居しているのに、必要な介護サービスや医療を受けさせてもらっていない、高齢者がいる。
    また、高齢者と同居する親族による年金詐取などの経済的虐待やネグレクト(介護放棄)が心配である。

         ↓

    後見人には財産管理権限とこれに伴う管理責任、身上監護権限とこれに伴う身上配慮義務があり、弁護士が社会福祉士等の第三者が後見人となることで、上記のような事態を防止できる。
    また後見人が他の多くの福祉関係者との連携を実行するので、高齢者の生活がより多く守られる。


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